山頂はなぜ涼しいか [科学]
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科学のとびら47
『山頂はなぜ涼しいか』 ―熱・エネルギーの科学―
日本熱測定学会 編
2006年10月5日 第一刷発行
Q26 山頂はなぜ涼しいか?
<A>
実際、高度が百メートル上がるごとに約0.6℃ずつ気温が下がります。ここではその理由を考えることにします。山の斜面を風が吹き上がってゆくとしましょう。もともと日射は地面を温めるので、地面近くの空気は上空に比べて温かいですが、太陽は平地も山も均等に温めますから、空気がじっとしているかぎり気温は土地の高度によらないはずです。そこで空気の移動による温度変化を取り上げます。
まず、大きいゴム風船を想像してください。ゴムは薄くて、内外の圧力差は無視できるものとします。風で吹き上げられていくにつれて、風船は膨らみます。なぜなら上昇するにつれて大気圧が下がるからです。風船が膨らむということは、風船の中の空気が外に向かって仕事をするということです。「仕事をする」とは物理学独特のいい方で、重いものを持ち上げたり、ボールを投げたりと、力を使って力の方向にものを動かすことです。山腹を吹き上げられる風船は後ろからくる風によって押し上げられるのですが、同時に前方にある空気を押し上げます。後ろからは仕事をされ、前に向かっては仕事をします。でも差し引きすると、される仕事よりする仕事のほうが、体積膨張による分だけ大きいのです。風船は、上昇するにつれて自分の熱エネルギーを使って外に仕事をします。その結果として風船の中の空気の温度が下がることになります。理科の授業で学ぶ断熱膨張ですね。
これが「山頂はなぜ涼しいのか」に対する答えです。空気の塊は自分から「仕事をする」つもりはないのですが、後ろから押されるままに上昇し、その際、自前の熱エネルギーを消費してまで余分に「仕事をする」はめになってしまいます。ゴム風船で囲まれた空気を考えたので、ゴム膜のすぐ内側の空気が外に向かって仕事をしたと考えたくなるかもしれませんが、ゴム風船の中の空気はどこでも同じように膨張し、場所によって圧力や温度が違うことはありません。つまり風船が膨張するとき中の空気はいっせいに仕事をします。ですから、風船はあってもなくても同じです。空気の塊が山腹を吹き上がるとき温度が下がるというのは以上のような現象です。
以上の論理を式で表現することができます。136ページ「変化率の計算」に式の導出を書きましたので、ちょっと手間ですが、式をたどっていただくと理科の面白さが実感できると思います。知りたいのは高度zが少しだけ上がったとき温度Tがどれだけ変化するかという変化率です。
変化率の計算結果は実際に知られている平均的な値(百メートルあたりマイナス0.6℃)より大きいですが、その差は水分の凝縮熱によると考えられています。つまり、空気が上昇して温度が下がり、露点以下になると空気に含まれていた水分が水滴になります。しかしQ27で述べるように、そのとき凝縮熱が放出されるので、空気の温度は次のページの計算値ほどには下がらないことになります。水蒸気の凝縮熱を使って計算すると、条件にもよりますが、温度変化は次ページの計算のおよそ半分程度の値になります。これらの結果から、「山頂はなぜ涼しいか」の答えが得られたといえるでしょう。
具体的にイメージしやすいように山の斜面に沿う気流を考えましたが、対流による上昇気流でも上に述べたのと同じ冷却過程が起こります。巨大な積乱雲の中央では激しい上昇気流があって夕立やひょうの原因となっています。
以上の説明は、二百年も前に考えられました。南米の太平洋側(ペルーやエクアドル)では海岸のすぐ近くにアンデスの高山が迫っていて、低地では灼熱の砂漠、山頂では常に凍結しています。このように急峻な温度勾配は、風の動きに伴う可逆的温度変化でなければ説明できないことに思い至ったのが理解の発端といわれています。1788年にイラズマス・ダーウィン(進化論のチャールズ・ダーウィンのおじいさん)が発表した考えです。
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山に登ると夏でも涼しいのは、山登りをしたことがある方はご存知だと思います。
乾燥した空気なら、100メートルで約1℃気温が下がるのです。
普通の水蒸気を含んだ湿った空気の場合、水蒸気のもつ熱エネルギーがあるので、半分近い温度差になるそうです。実際に観測される温度差は、100メートルで0.6℃くらいのようです。
スカイツリーが完成し、地表の気温と600メートル上空の気温を比べたら、3.6℃くらいの温度差が生じる計算になります。
スカイツリーの天辺と地表に温度計を取り付けて、天辺と地表の温度差を表示してくれたら、面白いと思うのは私だけでしょうか。
(by 心如)
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きおんげんりつ【気温減率】
気温逓減(ていげん)率とも。高さが増すにつれて気温が低くなる割合。対流圏内では、平均して100mにつき0.5~0.6℃。成層圏では0か負の値(上層ほど気温が高い)となっている。逓減率が大きいほど大気成層は不安定で対流活動が起こりやすい。
〔百科事典 マイペディア 電子辞書版〕
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成る程、今度スカウト達に話してみます
by 駅員3 (2011-08-15 12:52)
なるほどぉ
スカイツリーの実験は興味ありですね
そこにヒートアイランド現象は関係あるのかなぁ
by 大将 (2011-08-15 17:42)
駅員さん、コメントを頂きありがとうございます
大気の厚さが地表の気温を上げているという面があるのです。フェーン現象はその典型なのですが、原理を理解している人は意外に少ないかも知れません。
by 心如 (2011-11-20 13:35)
大将さん、コメントを頂きありがとうございます
ヒートアイランドは、局所的な排熱や、地面を熱を吸収しやすいアスファルトで舗装したこと、植物を減らして、コンクリートの建物を沢山建てたことなどが原因だと思います。
気温減率は直接関係ないのではないかと思います。
by 心如 (2011-11-20 13:38)
よく分かりませんので、小学生にも分かる説明をしていただければよいのですが
by はげ (2012-09-01 20:34)
はげさん、コメントを頂きありがとうございます
よく分らないとのことですが、小学生に微分方程式は無理だと思います。中学校か高校生になれば理解できますのでご心配は無用ですよ。
by 心如 (2012-09-01 21:04)