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異種移植なんて、とんでもない…!? [科学]

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『生命科学の冒険』―生殖・クローン・遺伝子・脳―
(青野由利/ちくまプリマー新書)

 クローン豚――臓器移植の供給源にするために

「これが6年前に生まれた日本初のクローン豚です」。茨城県にある農林水産省の研究所で紹介された元気な黒毛の豚を見て、「おお、君がゼナ」と声をかけたくなりました。2000年の7月に生まれた時には、新聞などの写真で何回も目にしながら、実際に対面するのは初めてだったからです。
クローン豚.jpg
 クローン豚が研究されてきた理由は、クローン牛とはちょっと違います。優れた性質の豚をたくさん作る目的でも使えないわけではありませんが、他にも利用できるのはないか、と思われてきたのです。
「ゼナ」という名前にも、その技術への思いが反映されています。それは「異種移植」と呼ばれる技術です。英語では「ゼノ・トランスプランテーション」と呼ばれます。「ゼナ」という名前は、そこからとられたのです。
 人間の臓器移植には、人間の臓器を使うのが普通です。それでも、提供を受けられる人間の臓器には限りがあります。代わりに、動物の臓器が移植できないか、というのは誰でも考える発想でしょう。
 中でもブタは、臓器の大きさや機能が人間に近く、研究のターゲットになっているのです。
 でも、ブタの臓器をそのまま人間に移植したら、急激な拒絶反応が起きて、すぐに臓器はダメになってしまいます。そこで、考えられたのが、拒絶反応が起きないように遺伝子改変したブタのクローンをたくさんつくって、臓器の供給源とする方法です。
 実際、拒絶反応を抑えた組み換えクローン豚が作り出されています。そのブタの臓器をサルなどに移植する実験も実施されました。いずれ、人間に移植できるようになるかもしれませんが、それでも問題は残ります。ひとつには、移植を受けた人がブタが持っているウイルスに感染する恐れがあるということです。そうすると、人間界にブタのウイルスが蔓延してしまわないとは限りません。
 これは、ブタに限らず、異種移植全般が抱える問題です。
異種移植の研究は難しく、実現は、まだまだ先の話ですが、厚生労働省の研究班は、異種移植を受ける患者に定期検査や死後の解剖を義務付ける指針を2001年度にまとめています。英国では性交渉の相手を登録する、という議論があったほどです。さらに、異種移植を受けた人が、体に動物の臓器を持っているということで、心理的な問題を抱える恐れもあります。
 それでも、臓器が不足していたら異種移植を受けるか。ゼナを見ながら考えてしまいました。
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 過去記事(『エイズの起源は、生体実験だった可能性も…!?』)に書きましたが、マラリアの予防実験のためにチンパンジーやマンガベーの血液が人間に注射されたり、若返りのためにチンパンジーの睾丸を取り出してスライスして、男性の下腹部や陰嚢に移植する手術が行われたことが、サルからヒトにエイズ・ウイルスを感染させた可能性があるのです(これこそ、まさしく異種移植なのですが…)。

 ブタからヒトに、臓器の異種移植を行なえば、ブタにとっては免疫があり問題にはならないが、ヒトにとっては免疫がなくて問題になるウイルスが感染してしまう可能性があるのです。

 私は、人間同士の臓器移植にも反対の考えの持ち主です。とくに、脳死患者から生きている臓器を取り出して、他の人に移植するなんてとんでもないと思っています。

 ましてや、ブタが持っている未知のウイルスが、『サルのエイズ・ウイルス』のように、人類に厄介な感染症を蔓延させる可能性があるのです。
 たったひとりの金持ちを救うために、人類全体に危機を招くのは馬鹿げていると、私は思います。しかし、自分や家族の命が助かるのであれば、カネに糸目は付けないという考えの人もいるのです…

 金儲けに目が眩み、エイズ・ウイルスと同様の禍を、人類に招く医者が出てこないことを祈ります。

 
(by 心如)
 

生命科学の冒険―生殖・クローン・遺伝子・脳 (ちくまプリマー新書)

生命科学の冒険―生殖・クローン・遺伝子・脳 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 青野 由利
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 新書


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コメント 4

shira

 ブタの内蔵は人間と似ている、それで医学的な目的からミニブタがありがたがられた———というのは学研の「科学」で読んだ覚えがあります。70年代にはこの話題はわりと普及していたんですね。だったらブタの内蔵を人間に移植できんのかいなという話は「6年の科学」に載ってました。もちろんそれはムリ、ブタどころか人間の内蔵ですら拒絶反応があって簡単にはいかないと。「科学」って偉大な雑誌だったなあ。
by shira (2011-10-02 00:14) 

心如

shiraさん、コメントを頂きありがとうございます

 ところが、すでにお亡くなりなった方ですが、心臓の弁に問題があり、人工の弁ではなくて、ブタの心臓の弁を移植手術して、一時的に一命を取りとめたという話を聞いたことがあるのです。
 その方は、拒絶反応を抑える薬を飲んでいたせいか、年に数回ですが、ちょっとした風邪をひいても、激しい悪寒に襲われて、真っ青になって苦しんでおられました。
 それでも、移植手術をしなけば後数か月の命だと医者に言われた方が、ブタの心臓弁を移植したから、十数年生きられたという話なのです。
 「科学」には、拒絶反応があって簡単にはいかないと書いてあったようですが、事実は小説よりも奇なりといいますが、カネのためにはとんでもないことをする医者は、昔も今もいるのです。
by 心如 (2011-10-02 00:33) 

大将

以前の心如さんの記事に有りましたが
基本になる生や死と言う事をきちんと理解できていないのに
あまり乱暴な考えをしないでほしいですね
by 大将 (2011-10-02 08:03) 

心如

大将さん、コメントを頂きありがとうございます

 問題なのは、金儲けに目が眩んだ者が、人類にとって危険なことをこっそりやっているということでしょうか。原発や二酸化炭素の排出ばかり槍玉になっていますが、一般の国民が知らないところで、おカネのために危険な行為をしている者がいるということです。
by 心如 (2011-10-15 07:34) 

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